まちと理性 ―商店街を知るための内視鏡的視座―

商店街内部(事務局職員)の視点で地域社会を考える

商店街の理念について

商店街の「理念」や「ポリシー」「コンセプト」「方向性」「ビジョン」

といったものを、どのように考えているのか、という質問を

しばしば商店街事務局として受けることがあった。

恐らく商店街を見渡した時に、そのようなものが

あまり感じられないので、そうした疑問が湧いてくるのであろうし、

必要なものであるにも関らず、この商店街にはそれが欠けている、

と感じるが故の質問でもあるのだろう。

しかし、商店街という組織は、会社や役所のようなタテ組織ではなく、

上下関係の無いヨコ組織であるため、「理念」を打出すことが非常に難しい。

加盟店においては、自分の店の「理念」を持っているかもしれないが、

彼らが商店街全体としての「理念」を持っているかと言えば、

恐らく大半の店主は、そのような発想を持ち合わせていないに違いない。

商店街の役員をしている加盟店であっても、あまり大差ないように思われる。

仮に組織の代表者などが、商店街の「理念」を打ち出し、号令を掛けたとしても、

皆がそれに従うかといえば、それはまた別問題だ。

従わせる強制力を何ひとつ備えていないのが、商店街という組織の実態である。

 

そういう意味において、商店街は個々バラバラの集団であり、

いわば精神分裂病的な、多重人格的な組織であるとも言えよう。

一方で別の見方をすると、このような多重人格的な性質が

逆に商店街の面白さを引出しているという側面も持っている。

ただ、この状態を「矛盾だらけで理解できない」と思う人にとって、

商店街の面白さはなかなか分かりづらいものなのかもしれない。

それはともかく、商店街には何故かそれぞれに独特の個性があり、

異なる気質を感じさせるところがある。ビジョンや理念も無いのに、

なぜ多くの商店街は違った顔を持ち、異なる表情を見せるのであろうか。

理由のひとつとして考えられるのは、その街ごとの個性であろう。

そこに広がる街全体がその商店街をそう在らしめているのであり、

更に言えば、その商店街を買い支えている利用客たちが

その商店街の個性をも育んでいるのだということである。

毎日毎日利用してくれる顧客の意識が、

最終的に店舗の方向性を左右する最大の羅針盤となるのは当然のこと。

顧客のニーズに合わせて店舗の在り方は左右されるのであり、

その集合体としての商店街もまた、顧客層の意向に沿って、

進化する生き物なのである。

 

とはいえ、やはり商店街が組織である以上、

そこに理念なりビジョンといったものが求められることは言うまでもない。

では、ヨコ組織の商店街において、いかにして理念を打立て、

その方針を一丸となって遂行していけば良いのであろうか。

組織の理念を策定するためには、加盟店同士の相互コミュニケーション、

合意形成というものがまず求められるだろう。

みんなで決めたものでなければ、みんなが従わない組織である以上、

どうしても全体の合意形成というものが必須の前提となる。

そのためには、みんなで話合う時間が必要となってくる。

もちろん短時間では済まないから、膨大な時間を確保する必要があるだろう。

それは容易ならざることであり、現実的にはかなり困難なことである。

また、仮にいくら時間があったとしても、話合う技術が無ければ、

議論は堂々巡りを繰り返すばかりである。

話合う人たちには、話合いをするための準備と資質が必要なはずで、

実はこれこそが非常に重要なカギとなるように思う。

 

話合いをするためには、自分の意見を論理的に整理して組立て、

論理的に相手に伝えることが必要となるが、これはひとつの技術でもある。

また、相手の意見を論理的に理解する技術も同様に必要だ。

自分の意見を論理的に組立て、論理的に伝え、相手の意見を論理的に理解する。

この3つの技術が備わって初めて、実りある理性的な議論が成立するのである。

理性ある話合いが出来て初めて、相互理解と合意形成が生れるのである。

つまり、そこにたどり着くための第一歩は、

まず我々が話合う技術を身につけるところから始まるということだ。

それは何と遥かなる道のりであることか。

しかし、そこを乗り越えなければ、地域社会は永遠にこのまま変わらない。

支配者が号令をかけ、被支配者がそれに従う封建社会に戻らない限り、

合意形成を図ることは、現実問題として非常に難しいのも確かである。

 

これはしかし、商店街に限った話ではない。

地域社会が抱える多くの問題の本質も、実はここにあるのだと感じている。

まちが理性を身につけなければ、いかなる議論も始まりはしない。

いかなる議論も、技術と準備なしには結論を見出し得ないのである。

遥かなる道のりを覚悟すること。

それが、理念ある組織への勇気ある第一歩ではないだろうか。

 

#地域社会 #商店街 #地域団体 #商工会