まちと理性 ―商店街を知るための内視鏡的視座―

商店街内部(事務局職員)の視点で地域社会を考える

商店街を知る③ 会社でもなく、公共団体でもない商店街組織

どこの町にも、たいてい大なり小なり商店街がある。

近年はともかく、昭和の時代は人の住むところに必ず商店街があった。

その意味において、商店街は誰にも身近な場所であったはずだ。

ところが、商店街がどのような組織で、どのように運営されているのか、

その内情はさっぱり外部には伝わって来ない。

身近な存在なのに内部が外から見えにくい、という点でいえば、

例えば小学校もそうした存在のひとつかもしれない。

小学校に行ったことがない人はいないだろうし、同じように

商店街に行ったことがない人も、まずいないに違いない。

それほど商店街は身近で、尚且つ分かりにくい存在なのではないか。

 

以前にも何度か触れているが、商店街の組織には任意団体と法人がある。

また、事務局がある商店街と無い商店街がある。

それぞれ規模も形態も運営の仕方も異なるが、

基本は会の組織があり、加盟店がお金を出し合って組織を運営している。

組織というと、「会社」をイメージする人も多いだろう。

しかし商店街の場合は、加盟店の集りに過ぎず、代表者や役員はいるが、

その人たちの権限はきわめて限定的で、加盟店に命令や強制はできない。

上下関係が明確な組織ではないのである。

加盟店の上位組織として商店街が位置づけられると誰しも思うだろうが、

実態は逆で、加盟店は組織に出資している株主のような存在でもある。

その視点に立てば、商店街という組織は、加盟店が共同出資して作った

「子会社」のような存在ということになる。

従って、商店街に雇われている事務員は、子会社の従業員という立場になり、

親会社である加盟店に対して、指示や命令など本来できるはずがない。

むしろ事務員の方が、指示や命令を受ける立場にあるのだと言える。

 

一方で商店街という組織は、公共団体のようなイメージを持たれることも多い。

ところが上記の通り、商店街は純然たる民間団体であり、

加盟店が自分たちの利益のために自分たちの資金で運営している組織である。

そのため商店街の管理が及ぶ範囲も、共有財産と共同事業に限定されている。

共有財産とは、その商店街が所有する街路灯、会館、アーケードなどである。

共同事業とは、セール、イベント、ホームページ運営などである。

それ以外のことは管理できる立場には無いのだが、誰もそうは思っていない。

街全体、すべてのことを掌握していると思われてしまっている。

特に加盟店の営業に関することは、商店街組織として

管理の及ぶところではないのだが、しばしば対応を迫られることがある。

例えば、お店の接客態度が悪いという苦情が、商店街事務所に寄せられる。

例えば、お店が違法に看板を設置しているという指摘を役所から受ける。

いずれも、是正するよう商店街組織として対処せよと要請を受けるのである。

店員の接客態度を、商店街組織として管理している訳ではない。

それは加盟店の従業員教育の問題である。

店舗の看板設置も、商店街組織として許認可をしている訳ではない。

違法行為があるなら所轄官庁が取り締るべきで、商店街にその権限は無い。

にも関らず、商店街組織として対応するのが当然であるかのように

様々な案件が外部から持ち込まれ続ける。

 

もちろん、それらの苦情や指摘は、商店街にとって重要なものも多い。

現状では、商店街組織が管轄する業務の範囲を超えてはいるが、

取り組むべき課題が多く含まれていることは否定できない。

だが、実際には何の権限も無いのだから、手も足も出せないのが実態である。

店員の接客態度が悪いと注意しても、聞く耳を持たなければそれまでだし、

違法看板の撤去を要請しても、店舗が従わなければ、それ以上何もできない。

店員の態度を所轄する官庁は無いが、違法行為であれば、

本来取締るべき所轄の役所が対処すべきなのではないだろうか。

それは例えば、町内に殺人犯が住んでいたら、町会長が犯人を逮捕すべきだ、

という論法であるように思えてならない。

同様にして、町内に迷惑な住民が住んでいたら、町会長が何とかすべきだ、

という論理でもあろう。

 

商店街の通りで不法投棄があったり、ホームレスが路上を占拠したり、

買い物客の自転車による事故が多発したり、店舗の建物工事で騒音が出たり、

不衛生な飲食店から害虫が発生したり、下水枡から頻繁に悪臭がしたり、

ハトやカラスが軒先に巣を作ったり、一方通行を逆送する車両が多かったり、

およそ商店街組織として管理の及ばないこれらの案件が、

商店街の通りで発生しているというだけの理由で、

当然対処すべき問題として日々商店街に持ち込まれている。

 

一体、商店街とはどんな組織なのだろうか。

何のための団体で、どうあるべきなのだろうか。

本来あるべき姿に遠く及ばないのだとすれば、何がどう足らないのか。

その問題を考える前に、まずは組織の現状と本質を正しく理解する、

最低限そのことが必要なのではないだろうか。

 

#地域社会 #商店街 #地域団体 #商工会