まちと理性 ―商店街を知るための内視鏡的視座―

商店街内部(事務局職員)の視点で地域社会を考える

テレビの撮影と商店街

テレビ番組で、毎日のように商店街が取上げられるようになってから

もう10年くらいになるだろうか。

最近では、有名なタレントが商店街に来てロケを行うことも

まったく珍しい光景ではなくなった。

実際、私が所属した商店街にも、多くのタレントさんが撮影にやって来た。

最低でも月に1回は商店街の中で撮影が行われたし、

街頭インタビューは、ほぼ毎日、どこかのワイドショーが来ていた。

何も知らない人は、商店街がメディア戦略として、テレビ局を誘致している

と思うかもしれないが、一切そのような事実はない。

そもそも、商店街が声をかけて来てくれるような世界でもないだろう。

 

商店街事務所には毎日、メディア関係者から問合せや相談の電話が入る。

その大半は街頭インタビューの申込みだが、ドラマ、CM、バラエティの

撮影に関する相談も少なくない。

私が勤務した商店街では、基本的にドラマ、CM、映画の撮影を

お断りしている。

以前、そうした撮影をお受けして大変な騒ぎになったことが何度かあり、

もう二度と協力しない、ということになったらしい。

 

ドラマなどの制作では、ロケ地を探す(ロケハン)担当者と

現場スタッフは、たいてい別の人であることが多い。

ロケハン担当者は「ご迷惑をおかけすることは絶対ありませんから」と

たいそう低姿勢なのだが、いざ撮影となると、現場スタッフは

傍若無人でやりたい放題というパターンを何度も経験している。

勝手に商店街を通行止めにして撮影を優先するのが当たり前。

道の真ん中に撮影機材をドサっと並べて放置したまま。

挙句の果てにはBGMで流している有線放送を止めろと言い出す始末。

商店街は「オープンセット」ではない。買い物をする場所なのである。

当たり前のことが分からない人種に何度遭遇したことか。

 

一方で、バラエティ番組、特に散歩系、旅行系番組で取上げられると、

視聴率によっては、大きな反響を呼ぶこともある。

問合せの電話がガンガン商店街事務所にかかって来て、放送翌日には

大勢の来街客でごった返したこともある。ムゲに扱うわけにもいかない。

テレビの宣伝効果はやはり絶大である。

商店街のホームページの閲覧者数も、テレビの露出があると、

だいたい3倍から10倍以上に跳ね上がる。実に有難いことだ。

ところが最近の傾向として、メディアによる集客効果は、

日増しに瞬間的なものになっているように感じる。

数年前までは、テレビ効果による集客が数週間も続くことがあったのだが、

ここ最近は1日、2日で終わってしまう。

しかも、テレビに出たお店にしか行かないお客さんが非常に増えている。

以前は番組で取上げられた店に限らず、街全体に

広く集客効果が及んでいたのだが、今は極めて限定的な効果に終わっている。

世間の興味は「タレントが来た街」よりも「タレントが来た店」に

そして「タレントが食べたもの」に限定されているように思えてならない。

 

商店街は一般的に、観光地や繁華街ではないエリアが多い。

いつもほぼ同じ人が歩いているローカルな街がほとんどだろう。

そういう商店街は、その地域の住民が支えてこそ健全なのだと思う。

確かに遠方からわざわざ来てくださるお客様は、本当に有難い。

大事にしなければならない。

そして同じように、地元のお客様も大事にしなければならない。

テレビに出ても出なくても、日々お買物をしてくれる、

そのことが地域の商店街をどれほど元気にしていることか。

 

商店街は買い物をする場所なのである。

 

#地域社会 #商店街 #地域団体 #商工会