まちと理性 ―商店街を知るための内視鏡的視座―

商店街内部(事務局職員)の視点で地域社会を考える

商店会の存在意義と小学3年生

商店街の理念を打出すためには「合意形成」が必要だ、と以前書いた。

「合意形成」のためには時間をかけてとことん議論しなければならない。

成果のある議論をするためには、話し合う技術を身に付けなければならない。

いかなる議論も、技術と準備なしには結論を見出し得ないのだ、

と以前このブログで私は書いた。

このことは、様々な別の問題においても当てはまるのだと思う。

商店街に限らず、私が関係した様々な地域の話合いの場において、

そのほとんどが議論不足のものばかりであったと感じている。

時間の制約がある上に、話し合う技術も未熟であるため、

充分に議論が尽くせないのは、ある程度、仕方の無いことかもしれない。

それにしても、商店街はあまりに議論をしない組織だと思う。

もちろん例外も多くあるとは思うが、周囲を見渡す限り、そんな印象だ。

恐らく、商店街というものが創設された時代には、創業者たちによって

繰り返し繰り返し、議論が重ねられたに違いない。

ところが、相続税のかからない商店街環境という財産を

タダで相続した後継者たちは、議論の成果まで継承しているように思えない。

いまもう一度、議論すべき時に来ているのではないかと私は考える。

《なぜ自分たちは商店街をやっているのか》という問題について。

 

そこで、議論しない人たちに代わって、いまここで

試みに少し考えてみることにしよう。

といっても、差し当たりここで考えるのは、

《議論のきっかけ》という程度のものに過ぎないかもしれない。

 

商店街事務所の仕事に、小学校の社会科見学対応という業務があった。

私は毎年、3年生の子供たちに商店街の業務内容や工夫について説明した。

なぜお店の人たちは商店会という会を作って活動をしているのか、

子供たちに分かりやすく説明しなければならなかった。

初めに説明するのは、1店舗が1万円かけて宣伝する場合と、100店舗が

1万円ずつ出し合って100万円かけて宣伝するのと、どちらが有利ですか

という問いかけである。答えは明白だ。

大人の言葉で言えば「スケールメリット」である。

次に、八百屋さんが1店舗で商売するのと、魚屋さん、パン屋さん、美容室、

洋服屋さんが集って商売するのと、どちらがたくさんお客さんが集りますか、

と質問する。これは多業種構成のメリットである。

更に、八百屋さんが1軒しかない商店街と、2軒3軒ある商店街とでは、

お母さんはどちらを利用すると思いますか、と尋ねる。

こうして、零細小売業者が1店舗では成立たないことを説明していく。

私はいつも説明しながら、商店街の当事者も、小学校3年生に戻って、

もう一度ここから議論を積み上げていくべきなのではないかと感じていた。

なぜ自分たちが商店街活動をしているのか、自分自身でしっかり理解しないと

他の人にその必要性を説明することができなくなってしまうからだ。

深刻なことに、店主たち自身でさえ商店街が必要だと思っていない節があり、

「やらされている」「仕方なくやっている」という本音が

思わず透けて見えてしまうことも少なくない。

これでは、新規出店者に加盟してもらうことなど出来るはずがない。

 

なるべく大勢の多種多様な店舗が、みんなで協力しあうことが

商店街という仕組みの最大の強みであることは言うまでもない。

1店舗だけで商売は成立たないのである。

しかし、みんなで協力しあうことが不十分であれば、すぐにその強みは失われ、

逆に矛盾と不満を生み出してしまう弱点にさえ変わってしまうだろう。

その当たり前の原理原則を正しくすべてのお店が自覚するところから、

新しい議論は始まるに違いない。

 

#地域社会 #商店街 #商工会 #合意形成