まちと理性 ―商店街を知るための内視鏡的視座―

商店街内部(事務局職員)の視点で地域社会を考える

何のために福引セールをしているのか

なぜ自分たちが商店街をやっているのか、という議論に続いて、

何のためにその活動、その事業をやっているのか、という議論をしてみよう。

我々は、うっかりすると、いつも手段としてやっていることが

いつの間にか目的に変わってしまいがちである。

例えば、毎年、福引セールを開催している商店街は多いのだが、

なぜ福引セールをしているのか、という点に関して、

果たして加盟店相互に理解が共有できているのであろうか。

なぜですか?と質問して、即答できるお店がどれだけいるだろう。

「なぜって、店の売上げを上げるためでしょう」と答えるかもしれない。

その通り。福引セールは手段であって、目的ではない。

目的は「店の売上げを上げる(増やす)」ことにあるのだ。

ところが毎年の行事と化して、事業を消化することが目的となってしまう。

本来の目的がどこかへ消えてしまい、店の売上げを検証することまで

できていない商店街は少なくないだろう。

では、なぜ「福引セール」という手段を選んでいるのですか?

その質問には、どう答えるであろうか。手段は他にもあるはずではないか。

「なぜって、いつもやっているからでしょう」と答えるかもしれない。

或いは「他に良い方法が見つからないから」と答える人もあるだろう。

福引セールは果して加盟店の売上げに貢献しているのか。

他の販促ツールとどこがどう優れているのか。本当に他の方法が無いのか。

改めて議論している商店街は、そう多くないに違いない。

 

私は商店街の中にいて、いつも福引セールの効果について考えていた。

改めて説明するまでもないと思うが、福引セールの基本的なしくみは、

商店街が景品費を捻出するために加盟店へ福引券を割り当てて販売し、

加盟店は買取った福引券を買い物客に一定のルールで配布する。

買い物客は受取った福引券で抽選を行い、様々な景品が当るという催しだ。

福引券を売った資金で商店街は景品を用意する訳である。

多くの場合、景品は商店街のお買い物券が提供される。

というより、実は福引セールの主たる目的はお買い物券をバラ撒くことにある

と言っても過言ではない、と私は考えている。

つまり、加盟店の売上げを増やすための手段として、加盟店でしか使えない

金券を《効果的に》バラ撒いて、無理やり買い物をしてもらう、

というのが福引セールの狙いなのである。

購買心理とは不思議なもので、通行人にただ金券をバラ撒いただけでは、

効果的な購買には結びつきにくいものらしい。

「金券が当りました!」「あなたは幸運です!」

という状況をわざと演出した上で、お買い物券を進呈した方が、

単にバラ撒くよりも遥かに購買意欲を高める効果があるらしいのである。

なるほど、ちょっと分かるような気もする。

また不思議な心理として、500円の金券が当った人は、500円使った上に

あと500円使っても損はしない、という錯覚を覚える効果があるという。

つまり商店街で提供した金券の2倍くらいの経済効果を生む可能性があり、

そこに加えて「ついで購入」の効果も期待できる。

もっとも、そのうち金券の発行額分は、商店街の負担ということになる。

お店の側は、福引券を購入する経費負担があり、それを補填する売上げが

補償されている訳ではない。まち全体としての効果を見なければならない。

うまく理解が得られないと加盟店の不満を買うことになりかねない。

福引券の取扱店が減ってしまうと、利用客の不満が増大し、逆効果にもなる。

この点が福引セールの難しい部分である。

 

また、福引セールには、上位商品を豪華にすることで射幸心を煽り、

利用客のセール参加(つまり購買)を促進する効果もある。

福引を引きたいがために、ついつい不要な買い物をしてしまうお客さんが

一定数存在することも確かである。

但しこれらの前提として、バラ撒く金券自体に魅力が無ければ効果は薄い。

せっかくお買い物券が当っても、使える店が限られているなど、

金券としての利用価値が低いと、集客効果も限定的となってしまう。

また使用期限を1~3ヶ月以内に設定するなど細かい工夫も必要だ。

 

もうひとつ目に見えない効果として、利用客の習性による効果が考えられる。

人にもよるが、我々は或る期間、同じ店舗を利用してしまう習性を持っている。

一度その店を利用すると、近いうちに再びその店をつい利用してしまう、

という習性で、何度か利用すると、また別の店に興味が移ってしまう。

この習性は、ポイントカードなどの利用状況データを分析すると、

必ず一定の割合で見ることができる現象である。

そこで、繰り返し商店街の金券を利用してもらうことで、

何度も同じ商店街に足を運ばせる習性を維持する効果が期待できるのである。

従って、一定の期間を置いて何度も金券をバラ撒くことがより効果的となる。

最低、年に2回、夏と冬に福引セールを実施することは、条件を満たせば

目的に沿った手段として非常に有効であると考えられる。

もし福引セールを実施しても効果が実感できなければ、上記の条件の中に

何か問題点があるはずである。改めて点検すべきであろう。

 

何のために福引セールをしているのか。

それは効果的な金券流通による販売促進のための有効な手段であるからだ、

と全店舗が即答できたら、苦労は要らない。

ここにも合意形成、議論不足という壁が立ちはだかっているように感じる。

 

#地域社会 #商店街 #商工会 #福引セール #合意形成

 

 尚、しばらくの間、当ブログは夏休みに入ります。

また涼しくなった頃に再開する予定です。