まちと理性 ―商店街を知るための内視鏡的視座―

商店街内部(事務局職員)の視点で地域社会を考える

日替わり店舗の功罪

日替わり店舗をご存知だろうか。

日替わりと言っても、たいていの場合、3日間から1週間くらいの単位で、

異なるお店が次々と交代して営業する店舗形態のことである。

商店街業界では「ワンデーショップ」などとも言われている。

一般的にはサブリースと呼ばれ、サブリース専門の業者が店舗を借りて

その店を更に別の業者に又貸しするので「サブリース」と呼ぶのである。

家主から店を借りたサブリース業者は、自分では商売をしない。

専ら様々な業者に対して店を貸し出し、レンタル料を徴収して収益をあげる。

借りる側も、こうしたワンデーショップだけを巡回する専門の業者が多い。

もちろん固定で直接店を借りた方が家賃は安く済むはずだ。

それでもレンタル店舗を利用するのは、契約金や権利金、設備等々

様々なリスクを背負い、多額な資金を用意しなくて済むことや、

店舗の賃貸契約を結べない事情があるなど、理由は色々あるのだろう。

また、長く営業すると客に飽きられるという側面も無視できない。

数日単位で違う町を転々とした方が、よく売れる業種もあるだろう。

 

方や商店街を運営する側としては、商店会へ加入してもらえなかったり、

イベントに参加できなかったり、運営のお手伝いをしてもらえない

といった理由で、ワンデーショップは歓迎されない業種とされている。

私の所属していた商店街でもピーク時には6箇所程度ワンデーショップが

展開していたが、幸いどの業者も組合には加入し、会費も負担していた。

但しその店を利用する日替わり業者は、イベントなどに参加できないから、

一般の組合員と同じように扱うことはできない。

また、お客さんとトラブルを起したり、ゴミの不法投棄をして立ち去るなど、

厄介なことが多かったのは事実である。

中には地域の顧客を獲得して定期的に出店する顔馴染みの業者もいたが、

低質な商品を扱う業者や悪徳業者まがいの輩も見受けられた。

また商店会がワンデーショップを管理していると勘違いされることも多く、

次にどんな業者が来るのか、先週までいた業者の連絡先を知りたいといった

問合せや苦情がしばしば商店街事務所に寄せられる。

しかし日替わり業者の連絡先まで管理しきれないので対応に苦慮していた。

 

ところで最近ある論文を読んで、少々驚かされたことがある。

「賑わいのある商店街の現状―新小岩駅前ルミエール商店街の事例―」

梁国響氏著(『国士舘大学地理学報告』21号/2013年)という論文である。

この中で、商店街利用客の行動追跡調査を行った結果、約4割の客が

ワンデーショップを利用しているという驚きのデータが報告されている。

しかも商店街の活性化にワンデーショップが一定の効果を与えている

という点も併せて指摘されているのである。

確かに、いつも同じ店舗が、変りばえのしない商品を売っているよりも、

駅構内の出店や、お祭りの屋台に人が吸い寄せられるように、

好奇心をそそる目新しいお店が一定の魅力を持つことは否定できない。

管理が行き届かないことによる様々な弊害はあるものの、

ワンデーショップは商店街につきまといがちなマンネリズム

或る程度解消してくれる有効な手段と見ることもできるだろう。

課題としては、上記の「管理」という問題と、商店街ごと地域ごとに異なる

客層や商店街の姿勢、戦略とのマッチングの問題も考えられる。

ここがうまく噛み合えば、新たなビジネスチャンスの余地があるかもしれない。

 

さて、上記の梁氏論文では、商店街繁栄のひとつの指標として

不動産の「所有と利用の分離」について注目しており、これにも驚かされた。

すでに一部の識者が指摘していることではあるが、商店街における不動産の

所有と利用の分離、つまり店舗利用の流動化が街の活性化を促すという

ひとつの考え方が示されており、ワンデーショップもそうした流れの中で

理解されているのである。

これについて私は是とも非とも判断する能力を持たないのであるが、

店舗がテナント店化して、家主と店主が分離していくという問題は

間違いなく商店街問題の本質的テーマであると実感しているので、

非常に的を得た視点と分析にますます驚かされた次第である。

しかもこの論考は学部生によって執筆されており、更に驚愕である。

久し振りに心騒ぐ論説を得た。

 

尚、不動産所有と利用の分離というテーマは、以前にこのブログの

アントレプレナーシップ」のところで触れた問題や

「外国人と地域商店街の現代事情」の回で触れた不動産所有の

海外流出問題ともつながるテーマであり、またいずれ取上げてみたい。

 

#地域社会 #商店街 #地域組織 #サブリース店舗 #ワンデーショップ